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■INTERVIEW
『或る終焉』の気鋭監督ミシェル・フランコ  オフィシャル・インタビュー
新作『母という名の女』が6月16日(土)から公開

■前作『或る終焉』で衝撃のラストシーンが話題になったメキシコの気鋭監督ミシェル・フランコ。そのオフィシャル・インタビューが到着。 6月16日(土)公開の新作『母という名の女』のことを中心に、映画づくりや次回作のことなどを語っている。
『母という名の女』は母と娘の物語。人生経験が少ない17歳の娘ヴァレリアは、やはり未熟な若者との間に子をもうける。お産に不安を抱える娘のためにスペインからメキシコにやってくる母アブリル。母を信頼していないヴァレリアはそれでも徐々に心を開いてゆくが、関係修復も束の間、アブリルは驚くような行動に出る。
                                                             (2018年6月16日 記)  

 演出中のミシェル・フランコ監督

『母という名の女』のインスピレーションはどこから生まれましたか

■数年前、わたしはある妊娠した十代の少女を見かけました。それはメキシコではとても一般的な風景です。その女の子に私は強い興味を持ち、どのようにして彼女は自分自身をその状況に陥らせたのか、赤ん坊に何が起きるのか、そして彼女自身には…。そのようなことを考えました。彼女は満たされているようにも苦悩しているようにも見え、未来への希望にあふれていながら、同時に不安に押しつぶされそうになっている。あの幼い妊婦が見せたそんな心のグラデーションが、この物語の起源です。
加えて、わたしは非常に多くの男女が彼らの子どもとの関わりのなかで、いつの間にかたがいに対抗心を抱いてしまうという点に心ひかれます。20歳の時代はもうとっくに過ぎているのに、受け入れられない。家庭内のパワーバランスが移り変わっていく過程で、そんな拒否反応が混沌を引き起こすのです。これら2つの要素からこの映画は生まれました。

母親役、エマ・スアレスのキャスティングについて教えてください

■エマは外国から来るという設定にしたくて、スペイン人の母親というキャラクターの女優を探していたときにペドロ・アルモドヴァル監督の『ジュリエッタ』を観て、あ!アブリルにいいかも、と思いつきました。エマは知性と感性の両方で演技をしています。つまり、本能的に反応するだけでなく、とても理性的にものごとをとらえているのです。

母アブリルというキャラクターについて

■私はアブリルという存在を善悪で裁くような視点では描いていません。現代社会では良い母親であることを女性に押しつけていると思います。良き母でありなさい、良質な仕事を持ちなさい、子どものために常に近くにいなさい、夫のために常に官能的でありなさい、家族のために常に美しく装いなさい…。これらすべてを求められているのが現代女性なのです。多くのプレッシャーをかけられ失敗してしまうことも当然あると思います。しかも一度失敗した女性に対して、現代社会はすぐにレッテルを貼ってしまう。それを集約した結果がアブリルのような女性です。ある意味、現代社会を体現しているキャラクターなのです。

娘ヴァレリア役のアナ・ヴァレリア・べセリルについて

■ヴァレリアは完全に自然体で、私の手にすべてをゆだねてくれました。彼女には天性の才能があり、怖いものなしです。ごく自然に演技に入るのです。彼女の表現はあの年代の若い女性にしては非常に複雑なものがあって、その心のなかはまるで迷路のようです。彼女と作業しながら最後の表情をどうしていくかというのが見えてきました。逆に、彼女の表情や変遷がうまくいっていなかったら映画として成り立っていなかったと思います。というのも、映画の作品としての感覚というのは、ヴァレリアからもたらされるものだからです。

ヴァレリアの姉クララを設定した理由は?

■クララというキャラクターは、アブリルのバックグラウンドを考えたときに鍵となる存在です。母親と過ごした時間がアブリルより長いからこそ、クララはちょっとぽっちゃりとしていて、自尊心も低く、妹があんなことをしていても自分はやりたいことができず、生きたいように人生を過ごせていない。逆に母親と過ごした時間の短い妹のヴァレリアのほうが自由に振る舞っている。それはきっと、姉のクララほど母に苦しめられていないからだと思います。

演出方法と現場の雰囲気について教えてください

■肝心なのは出演者たちを信頼し、役に入り込む十分な時間ときっかけを彼らに与えることです。たとえば、エマ、ヴァレリア、そしてホアナはバジャルタにある家で撮影スタッフやわたしの干渉なしに1週間ともに過ごし、たがいのことをわかり合い絆を深めました。撮影に入ればどんな時でも彼らの方がわたしなんかよりも、それぞれが演じるキャラクターやそのバックグラウンドを把握していて、驚くことにおのおののアイデンティティーの在りどころを私に説明してくれるのです。画面上での化学反応はその1週間のあいだに培われたもので、撮影を完全な順撮りで進めていくことでそれはより強化されました。この手法は、とくに説明的でない作品の場合において俳優たちに有効のようです。

脚本の執筆方法は

■2012年に祖母の家を訪れたときに祖母が脳梗塞に見舞われ、やってきた看護師に「家族の方は部屋の外に出てください」と言われました。言葉を発することができないから祖母が望んでいることなのかはわからなかったけれど、仕方がないので父親や兄弟と部屋の外に出て待ちました。そして、このことを映画にしたいとその時に思いました。そこから物語にするまでに2年かかり、さらにそこから脚本作業を始めて1年半くらい。だからいわゆる脚本という実際にパソコンと向き合う作業までには頭の中で相当長い間、考えたり、関連本を読んだりという準備の時間があります。この脚本の段階が孤独で苦しく、私にとっていちばん辛い作業です。

いつも衝撃的なラストシーンですが、観客を驚かせるのが好きなんでしょうか

■好きです。ただ、重要なのはサプライズのための驚きにならないことです。観客には驚きと同時に「あぁ、なるほど」と腑に落ちてもらえるものでなくてはなりません。心理的な部分が描けているからこそ成立する、だけどサプライズとして立ち現れる時には思わず驚いてしまうような、そういうものでなければいけないと意識しています。自分が観客の立場でも、予想をいい意味で裏切ってくれるようなサプライズが好きです。

『母という名の女』という邦題をどう思いますか

■女性というものが、いかにいろいろなものであり得るかというのを示唆する聡明なタイトルだと思います。女性というのは母であるべきだという思い込みがまだまだ根強いけれど、別に女性は必ずしも全員が母に向いているとは限らないし、なれるものでもない。母になるということは深い理解や努力がないとなれないし、ただ漫然としてなれるわけではないから、そういったことをうまく示唆した良いタイトルだと思いました。

映画作りはどのように学びましたか

■私は映画学校には通っていません。メキシコ映画は質・量・多様性の面でかなりの発展を遂げ、すでに名を成した監督から新人まで、それぞれ思い思いのものを撮るべく名乗りを上げる声が重なり合っている状態ですが、私が高校を卒業した当初は、メキシコで1年に撮られる映画は7本しかなく、映画学校も2つしかありませんでした。そういう状況下だったので、映画ではなくあえてほかのものをと思いコミュニケーションを専攻しました。しかし映画に対する愛が消えずニューヨークの映画関係のワークショップに参加して、短編作品を撮り、独学で監督になりました。

次回作について教えてください

■『或る終焉』が完成して以来、ティム・ロスとわたしはもう1本一緒に撮ろうと話していました。わたしたちはそれをとても楽しみにしています。いまのところ、一緒に引きこもって執筆にあたっている段階です。ティムともう一度仕事ができるというのは限りない喜びです。まだ執筆中で詳しくは言えないけれど、これまでよりもより多くの視点が描かれ、物語の時間の経過も一律ではなく、あちこちに飛ぶような構造で、わたしたちの国の社会における格差といったものを描いたようなものにしたいと思っています。野心作なので期待していてください。



左から姉クララ、母アブリル、ヴァレリア

                                  母という名の女
                                LAS HIJAS DE ABRIL

■Staff&Cast

監督/脚本:ミシェル・フランコ 
出演:エマ・スアレス/アナ・ヴァレリア・べセリル/ホアナ・ラレキ/
エンリケ・アリソン
2017年メキシコ(103分) 配給:彩プロ 
原題:LAS HIJAS DE ABRIL(APRIL’S DAUGHTER)
2018年6月16日(土)から渋谷・ユーロスペースほか全国順次公開
公式サイト:http://hahatoiuna.ayapro.ne.jp/

■ミシェル・フランコ監督 MICHEL FRANCO



1979年メキシコシティ生まれ。脚本家、監督、プロデューサーとして活躍。
監督作として、第65回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門でグランプリを受賞した『父の秘密』(12年)、第68回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で脚本賞を受賞した『或る終焉』(15年)などがある。本作が本邦公開3作目。





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